無期雇用派遣の仕組みやメリット・デメリット、有期雇用との違いについて

労働者派遣法が改正された2015年以降、「無期雇用派遣」という働き方が注目されるようになりました。

その後「派遣の2018年問題」を経て、現在はワークスタイルの1つとして定着した無期雇用派遣ですが、働く人の間では無期雇用派遣はデメリットしかないのではという不安の声も散見されます。

派遣先の企業としても、派遣社員を受入れる際に無期雇用派遣と有期雇用派遣のどちらがいいのか、判断に迷ったことはないでしょうか。

そこで本記事では、派遣先企業の方に向けて、無期雇用派遣とはどのような働き方なのかを改めてご紹介するとともに、企業側と労働者側のそれぞれのメリット・デメリットについてもお伝えしていきます。

無期雇用派遣とは

無期雇用派遣は、読んで字のごとく雇用期間を定めない派遣契約です。

2013年に労働契約法が改正され、2015年に労働者派遣法が改正されましたが、この2つの法改正により新たに生まれたのが「無期雇用派遣」という働き方です。

派遣の種類は「紹介型派遣」「登録型派遣」「常用型派遣」の3つに分類されます。

無期雇用派遣とはこのうち「常用型派遣」のことを言い、「登録型派遣」を有期雇用派遣と言います。

ここでは無期雇用派遣の仕組みと、有期雇用派遣との違いについてご説明します。

無期雇用派遣の仕組み

無期雇用派遣の仕組みは、労働者派遣法改正により派遣元事業主に新たに課せられた雇用安定措置と、労働契約法の改正によって新たに定められた無期転換ルールに基づいています。

有期雇用派遣として派遣されている方が、同一の組織に3年間派遣される見込みがある場合において、派遣終了後も雇用を継続させるために派遣会社は雇用安定措置を行う必要があります

雇用安定措置の内容は以下の4つです。

1.派遣先への直接雇用の依頼
2.新たな派遣先の提供(合理的なものに限る)
3.派遣元での無期雇用(派遣労働者以外として)
4.その他安定した雇用の継続を図るための措置

雇用安定措置の内容は、基本的に非正規で働く人への直接雇用の推進を目指したものですが、無期雇用派遣は4つ目の措置に該当します。

雇用安定措置は派遣会社が行うものである一方、無期転換ルールは、労働者側から無期労働契約への転換を申し込むことができます

無期転換ルールが適用される条件は大きく3つです。

1.現時点で同一の使用者(企業)との間で契約している
2.有期労働契約が通算5年を超えて更新されており、かつ無契約期間が6ヶ月未満
3.契約更新が1回以上行われている

これらの条件がそろった場合、派遣や契約社員、アルバイトなど、有期雇用として働く労働者側に「無期転換申込権」が発生します。

無期転換申込権が発生した契約期間中に、有期契約の労働者から使用者(企業)に対して無期転換の申し込みがあれば、有期労働契約の終了日翌日から無期労働契約が成立します。

現在では無期転換ルールによる無期雇用派遣への契約転換に加え、無期雇用派遣としての募集・採用を積極的に行う派遣会社も増えているようです。

有期雇用派遣との違い

有期雇用派遣と無期雇用派遣で最も大きな違いは、同じ職場で働く際の期間制限の有無でしょう。

この期間制限は一般的に「3年ルール」と呼ばれ、「同じ職場で働くことができる期間は原則3年まで」と定められています。

さらにこの3年の制限は、事業所単位と個人単位によって段階的に適用されます。

たとえば有期雇用で働く派遣社員のAさんがX社に派遣社員として従事しているとします。

この場合、AさんにX社で働いてもらえる期間は3年までとなり、これが「事業所単位」の期間制限です。

Aさんを3年目以降も起用したい場合は、X社は自社の過半数労働組合などから意見聴取を行う必要があります。

意見聴取によって事業所単位の制限が延長された場合でも、「個人単位」の期間制限があります。

たとえば、先ほどのAさんがX社の人事課で働いている場合、3年目以降は同じ課で働くことができません。

しかし会計課や総務課など、これまでと異なる課であれば、3年目以降もAさんはX社で働くことができます。

無期雇用派遣はこの3年ルールの対象外となるため、派遣であっても同じ職場に長く勤めることが可能です。

3年ルールが適用される派遣社員でも、前項でお伝えしたように、3年間の派遣が見込まれる場合は雇用安定措置の義務対象となるため、無期雇用派遣として勤務継続になるケースも考えられます。

無期雇用派遣のメリット

ここでは無期雇用派遣について、派遣先企業のメリットと労働者側のメリットをご紹介します。

企業のメリット

・長い期間自社で勤めてもらえる

期間制限に縛られないため、これまで派遣社員に任せることが難しかった長期のプロジェクトや、習得までに時間がかかる内容の仕事も任せることができます。

無期雇用派遣で働いているということは、派遣であってもなるべく長く務めたいと希望する方が多いため、責任感が強く意欲的な人材である可能性も高いでしょう。

・引き継ぎや後任を探す手間が省ける

有期雇用の派遣社員の場合、人か組織のどちらかが異なっている必要があるため、3年ごとに引き継ぎ業務が発生してしまいます。

しかし、無期雇用派遣であれば、引き継ぎの発生もなく継続して業務にあたることができるため、後任を探す手間もありません。

労働者のメリット

・収入の安定

無期雇用派遣は待機中も給与が発生するため、派遣先が決まらないことによる収入や生活への不安がなくなるでしょう。

仕事が決まるまでは、派遣元で仕事をしたり就業へつなげるための研修を受けたりすることができます。

またお伝えしたように、3年の期間に縛られずに派遣先で働けるため、契約終了の時機を気にせず働くことができます。

・スキルアップや長期的なキャリア形成ができる

派遣先に長く勤められることで、長期的な仕事を任される機会が増えたり、スキルアップやキャリア形成がしやすくなります。

経験を重ねることで仕事の幅も広がりますし、企業によっては未経験でも無期雇用派遣を募集しているケースもあるため、新たな分野でのキャリアも得やすくなったといえるでしょう。

無期雇用派遣のデメリット

次に無期雇用派遣のデメリットについてもご紹介します。

企業のデメリット

・コストアップの可能性がある

無期雇用派遣の派遣社員を活用する場合、期間制限のある派遣社員に比べて派遣会社に支払う費用が高くなる可能性があります。

なぜなら度々お伝えしたように、無期雇用派遣は待機期間中も給与が発生しますし、昇給などの制度もあるためです。

また2020年に施行された同一労働同一賃金により、派遣先の企業は、派遣会社へ待遇情報の提供を行い格差解消に努めるほか、社員食堂など、自社の社員が利用している福利厚生についても利用機会を与えることが義務付けられています。

・育成に時間がかかる可能性がある

未経験の無期雇用派遣を希望する場合は、育成コストについても考えなければなりません。

また未経験者の起用でなくても、専門性の高い業務であるなど、派遣会社での育成が難しい場合は、派遣社員に対して派遣先の企業で教育や訓練を行う必要があります

労働者のデメリット

・働き方が固定される

無期雇用派遣の1番のデメリットは、自由な働き方ができないという点です。

有期雇用の場合は当然ながら、雇用の期間がいつからいつまでと明確に決まっているため、働く人は自分のスケジュールや都合に合わせて働くことができます。

長期の休みも有期雇用に比べると取りにくくなり、「好きな時に働く」といったような派遣ならではのメリットはなくなってしまうでしょう。

・採用選考や面接がある

派遣会社の採用選考に受からなければ、無期雇用派遣として働き始めることはできません

やる気があっても派遣会社の採用条件に合わなければ、何度も選考に落ちてしまうということも考えられるでしょう。

この点は正社員になる場合のリスクと変わらないため、人によっては無期雇用派遣よりも正社員を目指した方がメリットが大きいと感じるかもしれません。

・必ずしも長期で働けるとは限らない

同じ場所で長く働けることが魅力の無期雇用派遣ですが、派遣先によっては派遣社員の雇用を取りやめたり、別の人を希望されたりする可能性があります。

また同じ会社の中であっても、別の部署に異動になるということも考えられるでしょう。

登録型派遣や正社員との違い

はじめにお伝えしたように、登録型派遣は有期雇用派遣のことを指します。

ここでは、無期雇用派遣と登録型派遣の違い、また正社員との違いについて見ていきましょう。

登録型派遣との違い

・雇用関係が継続される

無期雇用派遣は、登録型派遣(有期雇用派遣)と同様に派遣会社と雇用契約を結びますが、雇用関係の発生時期はそれぞれ異なります。

登録型派遣の場合、派遣会社と派遣先との間で労働者派遣契約が結ばれ、派遣先での仕事がスタートした時点で労働者と派遣会社の雇用関係が成立します。

派遣先との派遣契約が終了すれば、労働者と派遣会社の雇用契約も終了するため、次の派遣先が決まるまでは、収入もストップするということです。

しかし、無期雇用派遣の場合は、労働者が派遣会社に採用された時点で雇用関係が成立し、派遣先との派遣契約が終了した後も派遣会社との雇用関係は継続します。

・固定給になる

登録型派遣の給与は派遣先によって異なるケースがほとんどですが、無期雇用派遣は多くの場合が月給制です。

賞与や手当がつくこともあるほか、昇給制度があるケースも多いため、時給を上げるのが難しい登録型派遣に比べて昇給の可能性が高いと言えます。

正社員との違い

雇用期間や派遣期間の制限がないことを考えると、無期雇用派遣は派遣会社や派遣先企業の正社員(直接雇用)と同じように感じますが、正社員と無期雇用派遣では、労働条件や指揮命令関係が異なります

・派遣会社の正社員との違い

正社員の場合、派遣会社と指揮命令関係にありますが、無期雇用派遣の労働者は、派遣先の指揮命令に従って勤務します。

また派遣会社の正社員は、派遣就労を労働条件としていないため、正社員を別の会社へ派遣労働者として派遣することはできません。

仮に派遣労働者として他社への派遣を行った場合は契約違反となります。

・派遣先企業の正社員との違い

派遣先の企業は派遣社員と指揮命令関係にあるため、自社の正社員と同じように、無期雇用派遣の方に対し業務上の指示などを行うことができます。

しかし無期雇用派遣で働く方の労働条件は、派遣会社の規定に基づいているため、たとえ派遣社員が派遣先ですばらしい成果を上げたとしても、派遣先での出世や昇給は望めません。

無期雇用派遣社員を受け入れる際の注意点

期間の定めがないというだけで、契約締結や就業については有期雇用の派遣社員を受け入れる場合と同じように守らなくてはならない注意点があります。

ここでは、特に無期雇用派遣の場合に見落としがちな点についていくつかご紹介します。

・正社員を募集する場合は派遣社員へも情報を提供する

自社で正社員を募集する場合、1年以上継続して受け入れている派遣社員がいる場合は、派遣社員に対しても正社員募集の情報を伝えなければなりません

また派遣会社から雇用安定措置として直接雇用の依頼があった場合、正社員に限らず労働者の募集を行う際は、その情報も派遣社員へ周知する必要があります。

・禁止業務に従事させない

無期雇用派遣であっても、港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関連業務への従事は禁止されています。

このような禁止業務に従事させた場合や、無許可の事業主からの受け入れなど、違法派遣を受け入れた場合は、有期雇用と同様に「労働契約申込みみなし制度」が適用されます。

派遣の受け入れに関するルールについては、厚生労働省の「派遣労働者の受入れ」に詳しい内容が記載されていますので、ぜひ参考にしてください。

まとめ

無期雇用派遣について、メリット・デメリットや有期雇用と正社員との違いなどをお伝えしました。

デメリットが多いとの声もありますが、その多くは無期雇用への理解が低いために起こるトラブルがもとになっています。

しかしお伝えしたように、無期雇用派遣は雇用の安定を目指した制度のもと生まれた働き方です。

決して無期雇用派遣だからといって正社員への道が閉ざされたり、労働者側に不利益をもたらしたりといったものではありません。

注意点をよく理解して適切な雇用関係を築くことができれば、働く人にとっても派遣先の企業にとってもメリットのある働き方ではないでしょうか。