労働条件明示書とは?雇用契約書との違いや作成方法などを解説
人材派遣業に限らず、新たに従業員やスタッフを採用する際は、労働契約を締結します。
「我が社には明確な『就業規則』がない」という企業も、採用時には賃金や労働時間などの労働条件を提示しなければなりません。
なかでも、特定の事項は、労働条件明示書として書面で交付することが法律で義務づけられています。
今回は、労働条件明示書と雇用契約書の違いや作成方法について解説します。
労働条件明示書と雇用契約書の違い
採用時にスタッフと取り交わす書類というと、「雇用契約書」を思い浮かべる人もいらっしゃるでしょう。
まずは、労働条件明示書と雇用契約書の違いを説明します。
労働条件明示書とは
労働条件明示書とは、雇入通知書とも呼ばれる書類のことです。
労働者としてスタッフを採用する際、企業は、労働契約法第6条に定められる「雇用契約」を結ぶ必要があります。
雇用契約は、スタッフが働くことになる企業に使用されて労働すること、企業がスタッフに対して賃金を支払うことに合意すると成立する契約です。
労働契約は口頭でも成立しますが、賃金や労働時間、そのほかの労働条件は、スタッフに事前に明示する必要があります。
また、労働条件のうち、特定の事項は、労働基準法第15条および労働準法施行規則第5条の規定に基づいて明示しなければなりません。
具体的には、下記の13項目になります。
1.労働契約の期間
2.就業場所および従業する業務
3.始業・就業の時刻、所定労働時間を超過する労働の有無、休憩時間や休日・休暇および労働者を2組に分けて終了させる場合の就業時間の転換
4.給与・計算方法・支払方法・賃金の締日・支払時期・昇給
5.退職・解雇
6.退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算方法・支払方法・支払時期
7.臨時で支払われる賃金、賞与、これに準ずる賃金・最低賃金額
8.労働者に負担させるべき食費や作業用品その他の事項
9.安全・衛生
10.職業訓練
11.災害補償・業務外の傷病扶助
12.表彰・制裁
13.休職
このうち、4の「昇給」を除いた1~5の項目は、書面による交付が必要です。全ての内容が記載されてさえいれば、書式は特に定められていません。
従来は、労働条件明示書という「書面」の交付を義務づけていました。しかし、昨今ではオフィスの「IT化」に伴い、ペーパレス化や電子化などの企業ニーズも少なくありません。
そこで、2019年4月以降は、双方の合意を条件に、書面に加えてPDFやメールでの記載を含む電磁的方法の交付も可能であるとして省令が改定されました。
労働条件明示書は交付を義務づけられており、企業が派遣スタッフに手渡しするか、電磁的方法で通知することで労働基準法に規定される要件を満たします。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、使用者が労働者を採用する際に取り交わす契約書のことをいいます。
雇用契約を締結する際は、契約書という「書類」を取り交わすことが一般的です。
しかし、日本は民法上、契約を成立させる際に書面などの「形式」を義務としない「意思主義」であるとされています。
従って、法律で定められた一部の契約を除けば、原則的に口約束であっても正式に契約は成立します。
この雇用契約も、例外ではなく、口約束でも契約は有効です。
とはいえ、後々、スタッフと企業との間で「契約時と内容が違う」「労働条件明示書の記載が契約内容と異なる」などのトラブルが発生する可能性もあります。
そんなトラブルを回避するためにも、雇用契約書という「れっきとした証拠」があった方がよいでしょう。
実務上は、「労働条件明示書(兼)雇用契約書」のような形で書類を作成することも少なくありません。
労働条件明示書と雇用契約書のそのほかの違い
労働条件明示書と雇用契約書は、以下の2つの点にも違いがあります。
・法的に必要か不要か
・署名捺印があるか
労働条件明示書は、義務づけられている労働条件を記載すればよいとされ、法律で交付が義務づけられています。
一方、雇用契約書は、必ず作成しなければならないものではありませんが、作成する場合は、書類に署名捺印することが一般的です。
また、雇用契約書を作成する場合は、企業とスタッフが1通ずつ保管できるよう2通作成します。
企業が、事前にスタッフの住所や氏名をパソコンで打ち込むよりは、スタッフに直筆で記入し、押印してもらう方がよいでしょう。
万が一、紛争に発展した場合に、誰が押印したかを特定することは簡単ではありませんが、直筆であれば筆跡鑑定ができるからです。
押印のみで済ませる場合は、スタッフに印鑑証明書写しの提出と同一の印鑑での書類への捺印を依頼するとよいでしょう。
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労働条件明示書の目的と発行義務
労働条件明示書は、雇用契約書と記載内容は似ていますが、特に書式が決まっているものではなく、捺印は必要ありません。
目的
労働条件明示書の目的は、スタッフと企業間に起きる紛争などのトラブルを防止することにあります。
企業は、自社で就労するスタッフと信頼関係を築くことが大切です。
スタッフが事前に労働条件を確認して納得できれば、自分を採用してくれた企業を信頼し、余計なトラブルを回避できます。
発行すべき理由
企業が労働条件明示書を発行すべき理由は、スタッフが、労働条件の内容を確認できるようにするためです。
書き換えられてしまうことを想定し、書面として発行されていればいつでも見られるので、スタッフも安心して就労できます。
労働条件明示書の対象者
労働条件明示書の対象者は、正規雇用のスタッフに限りません。
パートやアルバイトなど短時間労働のスタッフや、労働期間が決まっている派遣スタッフも対象となります。
さらに、一日単位や30日以内の期間のみ就労するような、日雇いのスタッフにも明示が必要です。
企業によっては、就労時間や給与の算出方法、休暇取得の規定などが全従業員に共通することもあるかもしれません。
その場合は、スタッフが常に確認できるよう、自社の「就業規則」を発行することもできます。
しかし、実際には、部署によって就労場所が違うことや正社員とパート・アルバイトなどの非正規雇用者とで就労時間や始業・終業時間が異なるケースも少なくないでしょう。
このように、雇用形態によって条件が異なる場合は、全スタッフに対し、それぞれ労働条件通知書を交付しなければなりません。
労働条件明示書の作成方法と交付
労働条件明示書は、雇用形態に合わせて各スタッフに交付することが必要です。
特に書式は定められていませんが、一般的な労働条件明示書の作成方法と交付についてご説明します。
作成方法と書き方
まず、労働条件明示書の作成方法と書き方についてです。
労働条件は、法律で規定される13項目の明示が必要ですが、書面の交付を要する項目は、主に下記の11項目になります。
作成する際、「就業規則」のどの条文を参照すればよいかを、あわせて記載しておくとよいでしょう。
1.契約期間
契約期間の有無、期間を有する場合の具体的な期間、契約更新の有無やその判断基準を記載します。
2.就労場所
実際に就労する具体的な場所を記載します。
転勤や配置転換で就労場所が異なる場合は、併記しましょう。
3.業務内容
採用後に従事する業務内容を記載します。
さまざまな業務に対応してもらう場合は、幅を持たせて記載するとよいでしょう。
4.始業・終業時刻
就労の始業・終業時刻を記載します。
シフト制や変形労働時間制、フレックスタイム制などの労働時間制度を適用している場合は、各制度に伴う始業・終業時刻をそれぞれ記載します。
就業時転換がある場合は、勤務パターンや対象期間の起算日までに通知すること、1ヶ月ごとに定めることなども記載しましょう。
5.休憩時間
休憩時間の開始・終了時間や合計時間を記載します。
シフト制などの場合は、各勤務パターンごとに記載しましょう。
6.就業時転換や所定時間外労働の有無
シフト制などの就業時転換や残業の有無を記載します。
「4」の項目とまとめて記載してもよいでしょう。
7.休日
定休日があれば、曜日を特定して記載します。
シフト制などの変形労働時間制を導入している場合は、その場合の休日や休暇も記載しましょう。
8.休暇
就労6ヶ月後に発生する年次有給休暇の日数、企業独自の休日があれば記載します。
正規雇用者やフルタイム、パートやアルバイトなど、雇用形態に応じて記載しましょう。
残業が1ヶ月60時間を超過した場合に、割増賃金引き上げの代替として付与する代替休暇の有無についても記載します。
※2023年4月より、中小企業は、割増賃金率の引き上げおよび代替休暇制度の導入が適用されます。
9.給与
日給・月給、時間給などの基本給、通勤手当などの諸手当、給与の計算方法、時間外労働の割増賃金率、賃金の締日、給与支給日、支払方法を記載します。
10.退職
定年制の有無、定年となる年齢、嘱託など継続雇用制度の有無などを記載します。
解雇事由やその手続き、自己都合退職の場合、何日前に手続きが必要なのかも記載しましょう。
11.福利厚生
社会保険の加入、雇用保険の適用など、法定福利厚生に関する事項を記載します。
パートやアルバイトの場合は、相談窓口となる部署名または担当者名も記載します。
※2015年4月1日より義務化された非正規雇用者の相談窓口は、労働条件明示書に記載が必要です。
なお、雇用形態ごとの労働条件明示書は、厚生労働の公式ウェブサイトからダウンロードできます。
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交付するタイミング
労働条件明示書を交付するタイミングは、職業安定法によって定められています。
2018年1月1日付で施行された新制度では、新卒の場合、正式な内定を出すまでに提出しなければなりません。
実際に雇い入れる入社日の交付でよいと思われがちですが、労働条件を定めずに採用を決定することは現実的に考えにくいため、正式な内定時とされています。
労働条件明示書に記載すべき項目が全て含まれていれば、採用内定通知と兼用でも問題ありません。
パートやアルバイトの募集や中途採用の場合は、ハローワークや求人サイトで募集したり、自社ウェブサイトに求人情報を掲載したりすることもあるかもしれません。
この場合も、募集要項に労働条件の記載が必要です。
さらに、改正後の職業安定法では、労働条件に変更があった場合には、可及的速やかに変更内容を記載することが望ましいとされています。
労働条件通知書作成時の注意点
労働条件明示書作成時の注意点は、大きく分けて4つあります。
1つ目は、2019年改正の労働基準法施行規則第5条により、労働条件明示書が書面交付に加えて電子メールやファクシミリの交付が可能となったことです。
ただし、スタッフが希望した場合に限定され、電子メールなどの通信のみで明示する場合は必ず宛名を特定し、書面としてプリントアウトやダウンロードが可能な形式でなければなりません。
2つ目は、2020年の法改正により、労働基準法第109条に規定された労働条件明示書の保管義務が、3年から5年に延長されたことです。
実際、雇用契約に関するトラブルは、退職後や解雇後にも発生する可能性があります。
書類は、契約して5年以前に契約が終了しても保管しなければなりません。
企業は、万が一トラブルがあった場合に備え、保管場所や保管方法を決めておくとよいでしょう。
3つ目は、労働基準法第120条の規定により、労働条件明示書を提出しない企業に対し、30万円以下の罰金が科されていることです。
さらに、記載されている労働条件が雇用の実態とかけ離れている場合は、労働基準法第15条の規定により、スタッフ側が直ちに契約を解除できます。
企業は、労働条件明示書の交付に加え、内容に変更があった場合は速やかに対応しましょう。
4つ目は、労働条件明示書の内容をきちんとスタッフに説明し、納得してもらうことです。
人材派遣業に限ったことではありませんが、昨今は「多様性」が認められる時代です。
外国人労働者や障がい者、介護や育児に携わるスタッフと雇用契約を結ぶケースもあるでしょう。
諸事情を抱えるスタッフに対し、企業が、互いに誤解が生じないよう、きちんと説明して納得してもらうことは信頼関係を築くためにも非常に重要です。
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労働条件明示書の作成は、法律で交付が義務化されているだけでなく、スタッフとの信頼関係を築くために必要不可欠なものです。
スタッフが労働条件に納得し、気持ちよく働くことができれば、モチベーションや企業定着率も高まり、結果として企業の労働生産性も向上します。
「スタッフエクスプレス」を活用し、必要事項がしっかり盛り込まれた労働条件明示書を効率的に作成しましょう。
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